電子現金

共通科目情報処理(上級)、インターネットの仕組み、2003年02月14日

                                       電子・情報工学系
                                       新城 靖
                                       <yas@is.tsukuba.ac.jp>

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■電子現金

◆電子現金の性質

お金は、情報。ただし、コピーが禁止されている。

電子現金(electronic cash)とは、現金が持っている有用な性質を ディジタル情報を使って実現しようとするものである。ここで、電 子現金で実現しようしている現金が持っている性質としては、次の 2つがあげられる。

これに加えてさらに、実際の現金にはないが、インターネット上で の買物などにも利用することを考え、次のような性質が重要となる。

電子現金の目標は、小額の現金にについても遠隔地への支払コストを0に近づ けることである。(クレジット・カードは、小額には不向き。)

現在実験段階にある電子現金は、ICカード型とネットワーク型に 分類される。

ICカード==コンピュータ。

ICカード型の電子現金は、ICカードが持っている耐タンパー性 (内部の情報が不正に読み書きできない性質)を利用して、ネット ワークが使えない環境にあっても利用可能である。この方式により、 1995年7月から、イギリスの National WestMinster 銀行と Midland 銀行が中心になって、Mondex と呼ばれるシステムの実験 が行われている。

ネットワーク型の電子現金は、コンピュータ・ネットワークを利用 することで、大規模な設備を用いることなく利用可能である。この 方式により、94年10月よりオランダの DigiCash 社が ecash と呼 ばれる電子現金の実験を行っている。最近では、米国の Mark Twain 銀行や、フィンランドの Marita 銀行も実験を開始した。

現在、ネットワーク型の電子現金をネットワークが使えないような 環境(オフライン)でも利用するための研究や電子現金を分割して 利用するための研究が行われている。

◆ネットワーク型電子現金の仕組み

ネットワーク型の電子現金は、公開鍵暗号の技術、ディジタル署名 の技術、および、一方向関数(結果から引数の値が推察できないよ うな関数)の技術を用いて実現されている。ここで最も重要な技術 が、ディジタル署名の中でも、「ブラインド署名」と呼ばれている 技術である。普通のディジタル署名では、署名する人が署名される メッセージの内容を目にすることになる。これに対して、ブライン ド署名では、メッセージの内容を見ることなく署名するものである。

客、銀行、店の間の電子現金の引き出しと支払の手順の概要を以下 に示す。

  1. 客が、10の140乗(140桁,480ビットくらい)色ある色紙の中から1色を選 ぶ。複写用のカーボン紙と共に封筒に入れる。(乱数と銀行の公開鍵を使う。)
  2. 客は、銀行に 1.の封筒とIDカード(預金通帳)を銀行に渡す。
  3. 銀行は、IDカードで客を認証して、口座から指定された額面を引き落 とす。そして、1.の封筒の上から銀行の署名を施す。銀行は、封筒の中の色紙 の色を知らない。(ブラインド署名)
  4. 客は、封筒を開封(1.の乱数を使う)して、銀行の署名を確かめる。封 筒の中味が、電子現金となる。
  5. 客は、4. の電子現金を店で使う。
  6. 店は、電子現金の2重使用の有無を銀行に確認する。
  7. 銀行は、電子現金にある銀行の署名を確かめる。また、データベースを 調べて、過去に電子現金が使われていないことを確かめる。店の口座に、電子 現金を預金する。
  8. 店は、預金を確認すると、商品を客に渡す。 ここで、銀行は、店から問い合わされた電子紙幣より元の客を知る ことはできない(ブラインド署名)。この方法の安全性は、公開鍵 暗号系を使ったディジタル署名に依存している。


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    Last updated: 2003/02/14 02:42:08
    Yasushi Shinjo / <yas@is.tsukuba.ac.jp>