暗号、電子貨幣、著作権

共通科目情報処理(講義)、国際総合学類対象、1997年02月12日

                                       電子・情報工学系
                                       新城 靖
                                       <yas@is.tsukuba.ac.jp>

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■復習

■認証

認証とは、情報の正当性や完全性を確保する技術である。利用者認 証とは、アクセスしてきた人が正当か否かを判定する機能である。 これを行うためには、しばしばパスワードや暗唱番号が用いられる。 利用者認証のために、公開鍵暗号系を用いることができる。銀行の 口座を例に、これを説明する。

口座を開く時に、顧客は、公開鍵と秘密鍵を生成し、公開鍵を銀行 に届け、秘密鍵を自分で保持する。顧客が通信回線を通じて銀行に アクセスしてきた時、銀行は乱数を1つ生成し、顧客の公開鍵でそ れを暗号化し、顧客に送り返す。顧客は、送られてきた暗号化され た乱数を、保持している秘密鍵で復号化し、銀行に送り返す。銀行 は、顧客から返された乱数が正しければ、正当な顧客であると判定 する。次回の呼び出しでは、別の乱数を用いることで、通信を記録 している傍受者にも対応することができる。

■ディジタル署名

ディジタル署名とは、通常の署名とおなじく、送られてきたメッセージが送信 者本人のものであることを識別、確認することである。メッセージ認証とも呼 ばれる。

ディジタル署名では、次のようなシステムが必要である。

ディジタル署名もまた、公開鍵暗号系を使って行うことができる。簡単な方法 としては、メッセージの送信者が送りたいメッセージの平文を、秘密鍵を使っ て暗号化する。メッセージの受信者は、送信者の公開鍵を使ってそれを復号化 する。きちんと復号化できれば、確かにそのメッセージがその送信者から送ら れてきたものであると判定することができる。

メッセージ全体を暗号化する代わりに、メッセージを平文で送り、それにメッ セージのある種のチェックサムを、秘密鍵で暗号化したものを送る方法もある。

これらの認証は、公開鍵暗号系ではなく、対称暗号系を用いても可能である。 ただし、この場合、鍵を管理する信用できる管理センターが必要となる。

■電子現金(electric cash)

◆電子現金の性質

電子現金(electric cash)とは、現金が持っている有用な性質を ディジタル情報を使って実現しようとするものである。ここで、電 子現金で実現しようしている現金が持っている性質としては、次の 2つがあげられる。

これに加えてさらに、実際の現金にはないが、インターネット上で の買物などにも利用することを考え、次のような性質が重要となる。

電子現金の目標は、小額の現金にについても遠隔地への支払コスト を0に近づけることである。

現在実験段階にある電子現金は、ICカード型とネットワーク型に 分類される。

ICカード型の電子現金は、ICカードが持っている耐タンパー性 (内部の情報が不正に読み書きできない性質)を利用して、ネット ワークが使えない環境にあっても利用可能である。この方式により、 1995年7月から、イギリスの National WestMinster 銀行と Midland 銀行が中心になって、Mondex と呼ばれるシステムの実験 が行われている。

ネットワーク型の電子現金は、コンピュータ・ネットワークを利用 することで、大規模な設備を用いることなく利用可能である。この 方式により、94年10月よりオランダの DigiCash 社が ecash と呼 ばれる電子現金の実験を行っている。最近では、米国の Mark Twain 銀行や、フィンランドの Marita 銀行も実験を開始した。

現在、ネットワーク型の電子現金をネットワークが使えないような 環境(オフライン)でも利用するための研究や電子現金を分割して 利用するための研究が行われている。

◆ネットワーク型電子現金の仕組み

ネットワーク型の電子現金は、公開鍵暗号の技術、ディジタル署名 の技術、および、一方向関数(結果から引数の値が推察できないよ うな関数)の技術を用いて実現されている。ここで最も重要な技術 が、ディジタル署名の中でも、「ブラインド署名」と呼ばれている 技術である。普通のディジタル署名では、署名する人が署名される メッセージの内容を目にすることになる。これに対して、ブライン ド署名では、メッセージの内容を見ることなく署名するものである。

客、銀行、店の間の電子現金の引き出しと支払の手順の概要を以下 に示す。

  1. 客が、額面、乱数、額面に応じた銀行の公開鍵より、一方向関 数などを使ってある数値を計算する。
  2. 銀行は、客から (1) の計算結果と額面を受け取ると、客の口 座から額面を引き落とし、客には、(1) に対して金額に対応する署 名をした数値を返す。
  3. 客は、(2) の数値と (1) で用いた乱数を使って、電子紙幣 (数値)を作る。
  4. 客は、額面と (3) で得られた電子紙幣を店に渡す。
  5. 店は、銀行に連絡して、その電子紙幣の有効性((2)の銀行に よる署名の有無)と、その電子紙幣が過去に使われていないかを確 認し、商品を客に渡す。
  6. 銀行は、店の口座に現金を振り込み、その電子紙幣が使われた ことをデータベースに記録する。
ここで、銀行は、店から問い合わされた電子紙幣より元の客を知る ことはできない(ブラインド署名)。この方法の安全性は、公開鍵 暗号系を使ったディジタル署名に依存している。

■著作権

著作権法(抄)

著作権法

著作権法 著作隣接権

パブリシティ権、 芸能人の氏名・肖像が持つ顧客吸引の経済的な利益ないし価値を排他的に支配 する財産的権利。

著作者人格権(公表権、同一性保持権、著作者の 名誉を害する方法による利用を妨げる権利)

放送 著作権法8条 放送 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信
の送信を行なうことをいう。
有線放送 著作権法9条の二 有線放送 有線送信のうち、公衆によつて同一の内容の送
信が同時に受信されることを目的として行うものをいう。
有線送信
著作権法17条 有線送信 公衆によつて直接受信されることを目的とし て線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の 部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場 合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信を除く。)を 行うことをいう。
ネットワーク、インターネットは、「有線送信」。 第39条、40条は、「有線放送」と「放送」について規定している。 「有線送信」は、できない。

プロトコル(規約)やアルゴリズム(解法)は、著作権では保護されない。 (10条)

雑誌のコピーは、いい。本はだめ。 図書館で本をコピーするのは、いい。

引用は、OK。でも、「公正」の視点で、「正当な範囲」でなら。

映画、音楽(歌詞、楽譜)関係は、非常に厳しい。

これからの行方は、一人ひとりの行動にかかっている。

■インターネットと規制

シンガポール。

◆アメリカ

コミュニケーション品位法。 the Communications Decency Act of 1996。 1996年2月8日大統領が署名。

この法律に反対して、WWWページを黒くする運動が起きた。

アメリカ市民自由連合とアメリカ図書館協会などが訴訟。 その後、裁判が併合。

1996年6月11日に、フィラデルフィアの連邦地裁で違憲判決。

インターネット上の18歳未満の者と定義された未成年者に対する「猥褻な」 あるいは「明らかに不快である」と定義されるコミニュケーションを管理する の条項が憲法違反である。

http://www.asahi-net.or.jp/~VR5J-MKN/jiji411.txt
コミュニケーション品位法 訴状と判決の和訳

PICS (Platform for Internet Content Selection)。子供が見ることができる ことができるWWWページを親が選別し遮断するための技術。 既に製品化されている。

◆日本

日本国憲法には、通信の秘密の条項がある。 (アメリカには、表現の自由はあるが、通信の秘密の話はない。)

第21条 集会・結社・表現の自由と通信の秘密

 (1)集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障す る。

 (2)検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

通産省(電子ネットワーク協議会)、「電子ネットワーク運営における倫理綱 領」、1996年2月16日。

法務省、刑事法制に盗聴(電話の傍受、インターネットの傍受)を許す法律/ 条項を作ることを検討している。

郵政省、インターネットへの情報発信のルール化の検討に着手。

論点

Bekkoame 事件。猥褻なWWWページを見つけた警察がインターネット・サー ビス・プロバイダを家宅捜索し、ハードディスクなどを押収した。プロバイダ は、作者の本名や住所を警察に提供した。そのWWWの作者は、捕まり、1審 で有罪判決を受けた。

自主規制。

■日本国憲法99条

第99条 憲法尊重擁護の義務
 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法 を尊重し擁護する義務を負ふ。

■今後の予定


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Last updated: 1997/02/11 17:03:45
Yasushi Shinjo / <yas@is.tsukuba.ac.jp>